テタレ探訪

マレーシアでの生活の記録をぽつぽつと投稿します。迷走してます

薬指と自意識

自分が思っているより、人は相手の左手の薬指を見ている。

 

社会人になってからそう思うことが増えた。同僚とご飯を食べていると、「新しい担当者の人、若いけど指輪してるよね」などそれなりの頻度で誰かの指輪の話題になる。またあるときは、会社の修繕工事をしていた現場監督のお兄さんに恋に落ちかけた後輩が、彼の結婚指輪に気づいて諦めていた。結婚したら指輪をつける。当たり前のことで特に深く考えたことはなかったけれど、「指輪しているから家族のこと聞いてみようかな」など薬指で会話内容を判断できるし、先の後輩の例で言えば間違いを起こす前に自分で気づいて身を引くことができる。当事者以外にもちゃんと意味のあるツールなんだなと実感した。

 

当事者になってからは、自分が見られる側になった。結婚して3年目の秋ごろ、その時期頻繁に会っていた取引先の女性と世間話をしていると

「あれ、〇〇さん(私)もしかして最近結婚されましたか・・・?」と唐突に、かつ遠慮がちに聞かれた。

「こないだ会った時は指輪していなかった気がして。」

 

一瞬ポカンとなったがすぐに「あ、そうか」と思った。私はアレルギー持ちではないのだが、小さい頃から汗をかく時期になるとなぜか手指の股だけがかぶれる。少し痒くて皮がポロポロ剥がれるぐらいなのだが、テカテカと赤く見た目はいかにも痛そうな感じになる。そのため、夏場だけはどうしても結婚指輪を外したかった。暑くなってきてあーちょっとそろそろきてるなと思ったら、なんかちょっと夫に申し訳ないので一応ふわっと伝えてから涼しくなるまで指輪をつけずに生活する。そういえば前回この人と会ったのは、ちょうどその時期だった。

 

など一通り考えてウーンどしよ、面倒だから新婚てことにしとこうかなとも思ったのだが、後々会話の辻褄が合わなくなったら厄介なので結局全部説明した。相手はつかぬことを聞いてしまいすみません、的な感じになってしまい、私も純粋に「おめでとうございます」を言いたかっただけであろう美人で気の利くお姉さんの善意を無駄にしてしまったような気がして悲しくなった。気まずい。こんなことなら新妻で通すべきだったのではないか。いや、私が夏に指輪をつけてさえいれば・・・

 

以後、既婚者が指輪をつけるのは一種のエチケットだと考えるようになった。新婚に間違われるならまだマシだが、逆に外した時に「まさか離婚・・・?」と勘ぐられたり、変に気を遣われては困るし、いちいち説明するのが面倒だ。人に会うときは指輪をつけよう。それだけで平和なコミュニケーションを形成できる。今日も指の股に軟膏を塗る。結婚指輪のために。

 

そう心に誓った私だが、マレーシアに移住してから今日まででハッとする出来事があった。先日の旅行で日本人ガイド付のマングローブツアーに参加した時のこと。同じボートにはご夫婦2組、親子1組、私たち夫婦、計4組の日本人が乗っていた。特に自己紹介をするわけでもなく、ガイドさんが見せてくれた植物の葉っぱを参加者間で回したり、「あ、こっちの席の方が魚見えますよ」と席を譲りあったりする程度だったのだが、それでも同じ日本人。3時間もいれば少しずつ会話が生まれる。いいカメラで遠くの鳥を撮っていた隣の夫婦の写真を見て盛り上がったり、斜向かいの夫婦と向かいの夫婦がお互いの身の上話をしていたり。私はたまに周りの様子を見てへ〜と思いながら、ガイドさんの話と壮大なマングローブ林を堪能していた。

 

ふと、「そういえば今日指輪していないな」と思った。マレーシアは年中30度前後で毎日暑く、専業主婦の私は毎日スーパーと家の往復をするだけで夫以外の人間とまともに会話することがほとんどないので、例によって結婚指輪はケースの中に眠っていた。外したまま旅行にも来た。でも夫はいつも通りつけている。

そこまで考えて、私にの頭に一つの考えが浮かんだ。

 

もしかして、不倫旅行だと思われているのでは?

 

〜妄想〜

ツアー終了後

斜向かい奥様「ねえ、さっき一緒にボート乗っていたカップル、女の子だけ結婚指輪つけてなかったわよね?」

斜向かい旦那様「俺も思った、どういう関係なんだろうね」

斜向かい奥様「きっと触れちゃいけない感じなんだわ・・・どこに住んでいるのかとか聞きたかったけど、地雷踏んじゃいそうで喋りかけられなかったわよ」

〜〜〜〜

 

いや考えすぎだろ(笑)と自分で突っ込みつつも、事実あの時私たちだけが身の上話をしていない(聞かれていない)。冷静になった今でも、30%ぐらいは本当にこう思われていたような気がしている。不快な気持ちにさせてしまっていたら申し訳ない。一度そういう考えに至ってしまったら、自分と夫の薬指が全員に見られている気がしてしょうがなかった。

 

 

 

私は何食わぬ顔で、そっと左手の上に右手を重ねた。人に会う時は指輪をつけようとあれほど肝に銘じたのに、またやってしまった。明日からはまた気を引き締めて生きていかねば。

 

マングローブツアーはとても楽しかったです。

 

 

 

 

 

この記事を書いていて、「そういえば職業柄指輪つけてない人もいるって聞くけど、どれぐらいいるんだろう?」と今更ながら思ったので調べてみた。

 

zexy.net

 

思ったよりいる。